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1)順天堂大学医学部 精神医学講座2)順天堂大学医学部 気分障害分子病態学講座3)理化学研究所脳神経科学研究センター 分子精神病理研究チームキーワード: genomics, psychiatric disorder, bipolar disorder, schizophrenia, autism spectrum disorder (ASD)この抄録は,順天堂醫事雑誌68巻1号,p2-11,2022掲載の『The Current Progress of Psychiatric Genomics』の和文抄録です.Juntendo Medical Journal2022. 68(1), 92抄 録双極性障害や統合失調症などの精神障害は高い遺伝力をもつことが知られている。遺伝因子の精神障害への寄与は確かであるが、ある疾患に対する遺伝的要因の特定は長い間謎であった。ヒトゲノム計画の報告により、「ゲノミクス」と呼ばれるヒトゲノムの包括的な分析が可能となった。ヒトゲノム計画に続くゲノム技術の開発によって、さまざまな病気に関連する遺伝情報を解明し、病態理解を深めることができるようになった。精神障害に関するゲノム研究も例外ではない。このレビューでは、特に我々の行ってきた双極性障害ゲノム研究に焦点を当て、精神医学ゲノミクスの近年の重要な進歩を紹介する。国際コンソーシアムとアドボカシーグループによって精神医学ゲノミクスが加速されており、サンプルサイズと検定力が高まることでより確かな知見が提供されている。統合失調症の遺伝的構造は、コモンバリアント研究とレアバリアント研究の両方で解明されつつある。自閉スペクトラム症の遺伝的構造は、主にレアバリアント分析によって解明されてきている。双極性障害に関しては、コモンバリアント分析がレアバリアント分析に先行しているものの、我々は疾患に関連するレアバリアントを解明するのに努めている。ゲノミクスのアプローチにより、特定の精神障害の遺伝的要因を説明できるようになったが、疾患間で重複するリスク遺伝子・多面発現が予想以上に観察されている。ゲノム解析により、精神障害の現在の分類体系の境界は多かれ少なかれ再考が必要とされていると言える。遺伝子型と表現型の関係をより深く理解するために、”genotype-first”アプローチと呼ばれる、遺伝子型に基づいて表現型を理解する試みが開始されてきている。最後に、精神障害のより良い理解と治療に向けたこの新しいアプローチについて議論したい。92西 岡 将 基1-3)精神疾患ゲノミクスの進歩

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